ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
9月号は、山中智子さんに担当していただきました。

室内装飾新聞9月号より

『ICの視点』 ~ 「木のある暮らしへ」

「木を使いたい。」
そうご要望をいただくたびに、私はいつも少し立ち止まります。フローリング、造作家具、無垢のテーブル。同じ「木」という言葉の奥にあるものは、実は一人ひとり違います。温もりを求める方。経年変化を楽しみにする方。そして、木がそこに「生きていた時間」に、どこか心惹かれている方。飛騨高山のオークヴィレッジという会社を知ってから、私はこの最後の感覚を、もっと大切に扱うべきだと思うようになりました。

オークヴィレッジは1974年、農家の納屋を拠点にした小さな家具工房から始まりました。掲げてきた理念はシンプルです。
「100年かかって育った木は、100年使えるものに」
この一文を初めて読んだとき、コーディネーターとしての自分の仕事観が、少し揺さぶられた気がしました。私たちは、色柄や質感といった「見え方」から素材を選びがちです。それに対して、オークヴィレッジのものづくりは、その木が森でどれだけの歳月を生きてきたかという、「時間の重さ」から出発しています。

興味深いのは、この会社が家具や木造建築だけでなく、アロマの領域にまで手を広げていることです。「yuica」という、日本の森から生まれた精油のブランド。クロモジやヒノキから抽出した香りは、家具の木肌と同じ森の記憶を宿しています。

これまで私は、インテリアの香りづけというと、輸入のフレグランスをご提案することがほとんどでした。それでも、家具そのものが語る「木の匂い」と、同じ森から採れた精油の香りが呼応する空間は、これまで手がけてきたどの部屋とも違う説得力を持つのではないか、そう思わせてくれました。視覚、触覚、そして嗅覚。木の家具は座れば手が触れ、日々目に入り、時にはほのかに香ります。この「五感で完結する素材」という視点こそ、実はインテリアコーディネートの核心にあるのではないか。最近、そう感じています。

もうひとつ、心に残った言葉があります。
「子ども一人、ドングリ一粒」森から一本、木をいただいたら、一本、森に還す。資源を枯渇させないことを信条としてきました。これは単なる環境配慮というより、使う方と作り手の双方に「時間の感覚」を取り戻させる仕組みのように思えます。

忙しい毎日の中で家具を選ぶとき、私たちはつい「今すぐ欲しい」「安く早く」という時間軸で判断しがちです。それでも100年という時間軸で語られる家具を前にすると、そもそも住まいというものが、もっとゆっくりとした時間の中で育まれるべきものだったと、思い出させられます。

 コーディネーターとしてご提案できることは、決して高価な無垢材の家具を勧めることだけではありません。大切なのは、そこにある木がどんな時間を経てその形になったのか、その物語を暮らし手の方と共有すること。木肌の手触りを確かめていただき、そばに国産の香りを置き、季節ごとに変わる表情を、一緒に楽しんでいただく。そうした小さな積み重ねの先に、初めて「木のある暮らし」は完成するのだと思います。

オークヴィレッジを訪れて以来、私は打ち合わせの席で、こう思うようになりました。「この木の家具は、これからどんな時間を生きていくのだろう。」答えに正解はありません。それでもその問いかけ自体が、暮らしそのものをゆっくり見つめ直す、小さなきっかけになっている気がします。

森と人を繋ぐ家具

「Mori:toシリーズ」

オークヴィレッジを代表するユニット家具

「KOBAKOシリーズ」

建築事例 明治神宮

「Cofe杜のテラス」

 日本の森から生まれたアロマ

「yuica」

オークヴィレッジ株式会社 山中智子