ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
8月号は、三浦律子さんに担当していただきました。

室内装飾新聞8月号より

『ICの視点』 ~ 訪れたい場所がいくつもある魅力の街

 私が関西に居を移して今年で10年となります。それまでも九州福岡で住まいにかかわる建築業務やデザイン、コーディネート業をしていました。福岡はコンパクトでありながら九州では主要な商圏であり特に不自由を感じることなく業務をしていましたが、やはり関西大阪を中心とする都市圏でインテリアや住まいを取り巻く企業の数やショールーム・ショップなどの情報、そしてそのスピードには驚きを隠せません。毎年どこかで新しく施設が開業し、アクセスのよい場所に広いショールームが構えられ、展示されている多くの商材を見るだけで数時間などあっという間に経過してしまいます。それと同時に古くからの建物が保存され街のシンボルとなっていたり、歴史の出来事に載るような場所が普段通過する道すがらにあったり。文化財を展示してある美術館や博物館、企画展の充実度合いを目にするたびに、関西にいることで経験できるものには足を運びこの目で見ておきたいと願望が湧いてきます。時間がいくらあっても足りない、ワーク・ライフ・バランスの見直しをせねばとこの10年ずっと感じています。

 地理的にも情報も右も左もわからなかった転居時からは想像もできないほど、今では大阪市内をはじめ兵庫、奈良、京都まで気になる情報を入手したら軽々と出かけられるようになりました。

 その秘密はコツコツと集めたインテリアショップやショールームの地図。乳児を抱え日中外出することもままならなかった頃から、時を同じくして行動の制限を受けたコロナ禍。関西のニュースでインテリアや建築のニュースが取り上げられたり、ふと目にしたSNSで魅力的なショップが紹介されていたり、自宅で作業をしながらサンプルを取り寄せた企業の情報を知ったとき、私はひたすらグーグルマップにピンを挿しました。週末になったら、日中にまとまった時間ができたら、子どもと一緒に楽しめる年代になったら、コロナが明けたら…と気づくと行きたいところリストは300を超えるまでになりました。その甲斐あって今では仕事で訪れる先に合わせて地図を開くと名所や気になっていたショップがすぐ閲覧できるようになりました。

 自己満足の域で完結していたこの地図がふいに日の目を見ることになったのです。私が所属しているICA関西がこのたび一般社団法人化をし、設立記念誌を発行することになりました。その誌面制作を任されたときに「関西のインテリアコーディネーターがどこに行き何を見て日々研鑽しているのか」を伝えたいと強く思ったのです。私だけの偏った情報ではなく、設立にあたり構成された有志の実行委員会の方々のお力を借りて私の生活圏から離れた地域の知らなかった情報もたくさん集まりました。その結果これまでにない情報量のインテリア、建築、デザインに関するマップが出来上がりました。誌面に載せられなかったものについては協会のSNSフォロー特典として招待コードを配布しオンライン上でマップの閲覧ができるような取り組みもやってみました。

 10年前は「まだ関西のことよくわからなくて」と、どのショールームに行っても言っていた私。恥ずかしがっている暇もない、とにかく早くこの地の利を駆使して一人前に近づきたい一心でした。九州にショールームがない企業様だったりすると商品説明を現物で丁寧にしてくださったり、私の知らない関西の名所や魅力を教えてくださったりと、商人の街らしく懐深く人情厚く接していただきました。そのご恩を今度は自分の仕事の成果として良い空間を残すことや、新しく関西の地に来られた人へ同じように魅力を伝えるバトンを渡す番がきたのだなと感じます

 自分のスキルや人生を豊かにする一歩を踏み出すことの大切さはどの業界でも周知のこと。その一歩をどこに踏み込むか。関西には成熟し伝統ある地も、真新しくフレッシュな場所もどちらも存在します。ここで生まれ育っていたら果たしてこんなにも街の魅力を発見できたでしょうか。裏を返せば移住組だからこそ見える景色があるといえます。比較したからこそ、その魅力を発見し伝えることは、インテリアの幾つものマテリアルから「これがいい」と選択することによく似ていると感じた移住10年目の夏でした。

写真:アートに触れることができる街の魅力

室生芸術の森/2019年(奈良県)

グランフロント大阪/2025年(大阪市)

  三浦律子/DESIGNROOM