ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
7月号は、岩瀬 百代さんに担当していただきました。

室内装飾新聞7月号より

『ICの視点』 ~ 生きた提案を目指して~トイレ・洗面に注目する~

 コロナ禍が明け、日本は再び海外からの旅行者で活気を取り戻しつつあり、インバウンド(訪日外国人観光客)は、過去最高を記録しています。
最近ではインバウンドの旅も単なる観光から進化し、観光地から地方へ、名所めぐりから日本文化に触れる旅へと移行しています。
 日本のどんなところに驚いたかという質問に「トイレ」と答える人も多く、日本のトイレの質の高さはよく知られています。有名建築家が手掛けたトイレや、映画に登場したトイレなどをめぐる「トイレのツアー」も、話題性があり観光地としても評価されています。そうした特別なトイレでなくとも、日常的に利用する商業施設や高速道路のトイレにおいても、その設備の充実度や、掃除の行き届いた空間に私は利用する度に感銘を受けています。
 トイレ・洗面は公共で使うたくさんの人に対応するものから、店舗、住宅と様々あります。その場所ごとのニーズも様々ですので、要望に合わせた提案をする為、私も日々奮闘しています。
打合せで、検討する内容は主に
①広さ・予算・設置条件などの基本要件
②便器・手洗いの使い勝手や掃除のしやすさ
③デザインやカラーなど全体の雰囲気
④必要な備品と配置
⑤手摺やバリアフリー対応など(現在・将来的ニーズ含む)
…など、その現場に応じて打合せを重ねます。
日頃は打合せでの内容がどんな風に形になるかを考え、出先では完成形を見て、どんな部分を工夫されたのかを考え、発見する。を繰り返しています。
そして感じたのは、現代のトイレ・洗面所は「ただの衛生空間」から「パーソナルケアと癒しの空間」へと進化しているということです。
最近印象に残った事例としては、以下のようなものがあります
 ・オフィスビルでのトイレ部分:衛生面も考慮した掃除のしやすいパネルの面材を使用するだけでなく、ミラー設置面には深いブルーのタイルと間接照明、オート水栓・オートディスペンサーをゴールドで合わせたインテリアとしてこだわった仕上げで、オフィスの共用部分でありながら、ホテルライクな雰囲気に気分が高まります。
・旅館の居室:洗面台が空間の間仕切りとしての役割もしており、すっきりとしたデザインでありながら、必要なものが納まる収納もあり、インテリアにマッチしたディテールになっています。洗面を使用しながら、同じ空間を共有できる。旅先ならではの時間が過ごせます。
・改修工事での個人宅:トイレへと続く洗面は、建具を無くし、広々と使える工夫をしています。寒さが気になる空間は別室と同じくインナーサッシにするのではなく、インテリアとしても生きるステンドグラス付きの内窓を設置しています。洗面台には大きなミラーと化粧品などが片付けられるニッチを設け、魅せる収納にしたりと、海外で暮らしておられた施主様のセンスが生きる、暮らしに寄り添う空間となっています。
この様にトイレ・洗面台にも、様々な要望があり、デザインがあります。
 クライアントと設計士・現場監督・コーディネーターとで打合せを重ね、工事が始まると施工業者も含め、確認頂きながら完成に至るのが理想的ですが、すべての現場が同じように進められるものではありません。
 多様な案件に応じた、フランク且つ丁寧な打合せで、要望を的確に受け取り、現場へつなぐ。現場は要望を形にする。ただプランを作成・施工するのではなく、携わる人たちの連携とプロの技術が合わさることで、満足度の高い空間が完成します。情報のあふれる時代だからこそ、実物を観て触れる経験をしたい。そして経験に裏付けされた生きた提案が出来る様、努めていきたいと思います。

「松下IMPビル」1階トイレ手洗いコーナー

「松下IMPビル」1階トイレメイクコーナー

「直島旅館 ろ霞」客室洗面台

「築51年マンションの個人宅」洗面・トイレ

  岩瀬 百代/momowork