ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
10月号は、松本智子さんに担当していただきました。

室内装飾新聞10月号より

『ICの視点』 ~ 温故知新

 街の中には、たくさんのおしゃれなカフェがあります。お店に入ると職業柄、内装を凝視してしまいます。内装に使っている色や種類、デザインも気になるところです。照明器具の数やデザインもやはり気になります。ほかにはテーブルや椅子のデザイン、座り心地、サイズ感など。化粧室に入れば、ビニールクロスやタイルのデザインを見たり、手洗いの水栓の位置もよく気になります。ここ数年「カフェ」ではなく「喫茶店」「純喫茶」が若い人たちにも人気があるようです。昔からある喫茶店メニューや本格コーヒーを楽しむだけではなく、レトロな店の雰囲気が「映え」て人気のようです。古いモノが今、新しいということでしょうか。

『温故知新』 インテリアも、古いモノを残しつつ新しいモノを取り入れる。機能面をよくしたり、手直しをして持続できるように変えていく。どうしても経年劣化してしまうモノもありますが、経年美になっていくモノもあります。長い年月使われてもなお、美しく馴染み、代々に渡って受け継がれるモノ。それは人の手で丁寧に作られたモノだと私は思っています。

今回私がインテリアコーディネーターとしてかかわらせて頂いたのは、老舗の和菓子屋さんの喫茶部門です。天井から壁までアール状に繋がる構造。今では見かけないデザインの照明器具は、ガラス製。天井や壁にきれいで優し灯りを放ち、その陰影が奥行きを感じさせてくれます。数十年使ってきたオーダーメイドのテーブルと椅子。お店のモチーフをかたどったオリジナルのパーテーションなど。オリジナリティを残すために、使えるモノは残し、店内の雰囲気を変えていく。まさに『温故知新』 をテーマに再生しました。

最初にクライアント様の意向をお聞きしたのは、ベースとなる色です。これまでは白とピンクをベースにしていましたが、今回は高級感があり、落ち着いた店内の雰囲気にすることと、お店のイメージカラーでもあったオレンジを採用することになりました。ベースカラーはオレンジとブラウンになりました。椅子とテーブルは貼り替えたり、塗装をしたいりといろいろと思案しましたが、何店舗かお店をお持ちなので、他店の什器と入れ替えをすることになりました。オリジナルのパーテーションは塗装をし直しました。照明器具は満場一致でそのまま採用です。照明器具は、オーナー様とお知り合いの方が、ひとつづつガラス部分を外して水洗いし、本体部分はゴールドのスプレーで塗りなおしたそうです。

今回は厨房の整理収納にも入らせてもらいました。その際に昔使っていた食器などが出てきました。それを見たオーナー様が、リニューアルした喫茶で以前にあったメニューを再現したい、というお話をされていました。整理収納=お片付けは、ただモノを捨てることだけではありません。モノを整理することで、今とこれからのことを明確にすることができます。

店舗などは差別化を図るために、リニューアルして新しいデザインを取り入れることもいいと思います。が、継続をすることは大変なことだと思います。今まであったモノを活かし、これまでの歴史をリスペクトする。そして継承し、継続していく。それには内装の知識や、技術が活かされると実感させてもらった現場でした。

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松本智子/SIMPLE&SMART