ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
11月号は、清水 初美さんに担当していただきました。

室内装飾新聞11月号より

『ICの視点』 ~ 「老人ホームのインテリア」

老人ホームのインテリアについてICの視点から私見を述べる。
老人ホームといっても一括りではなく、大きくは民間施設と公的施設に分かれ、それぞれ利用者の介護度や提供するサービスの違いにより、たくさんの種類がある。
私が関わらせて頂いた民間の施設であるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は1人住まいが不安な自立の方から介護が必要な方まで様々な方が利用され、生活状況把握、相談援助のサービスがついた60歳以上を対象とした高齢者向け賃貸住宅だ。

ここ数年、立地条件やサービス、費用面等に加え、施設のインテリアの「しつらい」も選ばれる施設の重要なポイントだ。
入居されるお部屋はもちろんだが、ロビーや各階にある談話室、レストラン等の共有スペースのインテリアは最も重要な見所となる。
利用者の安心できる自由な暮らし、快適さに加え、訪れる家族、そして施設を管理するスタッフが心地よく過ごせるインテリアでなければならない。
建築的な要素はここでは省き、あくまでも「しつらい」に絞って以下6つに整理してみた。

①衛生的で清潔
②安全安心
③取扱メンテナンスが容易
④幸福な気持ちになれる明るさ
⑤おもてなしの心を感じられる上質さ
⑥自然とつながる

①②③は機能的価値だ。
①は抗菌抗ウイルス素材を使ったカーテンや家具、加えてアルコールや次亜塩素酸の清掃に耐えうる仕上げのモノが良い。特にレストランのテーブルや椅子には必要な機能だ。
②の安全安心面からは、車椅子の方もそうでない方も同時に集える十分な空間をとった家具の配置レイアウト、収納の開け閉めやすさ、両足がしっかりと床につくベッドの高さ、ホールド感のある安定した椅子が求められる。
回転椅子は、椅子の出し入れをせずとも使用できるが、ともすれば安定感がなく転倒の危険もあるため注意が必要だ。施設で用意される電動ベッドについては見守り機能がついた高機能なものが主流となりつつある。
③はクリーニング容易なカーテンやカバーリングソファ、椅子背座面の汚れの拭きやすさなどが挙げられる。
高齢者の生活は日々様々なことが起き、それに対応するスタッフの負担を軽減できるものが望ましい。

①②③の機能は必要なものだがそれを重視し過ぎると病院のような味気のない空間になる。
そこでICの腕の見せ所である④⑤⑥の情緒的価値の提案だ。
④の幸福を感じられる明るさは単に物理的な光量、照明手法の問題ではなく、色から感じる全体的な明るさ感が大事で、それが幸福感を高めるのだ。
アースカラーを中心にアクセントで色が持つ心理的な効果を利用する。イエローやオレンジで元気や自由を、ピンクは愛情を、グリーンで癒しや健康を、ブルーは知的で信頼感を表すことができる。加えて開放感を感じさせる家具配置も明るさを感じる重要なポイントとなる。
⑤の上質なものというと、高価な素材感があり高級なモノという経済価値が思い浮かぶ。決してそればかりではないが、施設を訪れた方から<こちらの家具は良いモノを置いてらっしゃる>とのお声を良く聞く。人生において様々な経験を積んでこられたお目が高い方が、自分や家族に相応しいと感じておられるのだ。それはその方を大事にもてなす心を伝える要素になる。
どこか一点でもアイコン的な家具やカーテンを配すると、ぐっと上質さが加わる。

⑥の自然と触れ合う要素の第一は庭や窓から見える景色であろう。季節の移ろいを感じる事は最も五感を刺激し、健康寿命を伸ばす。
また、室内に自然を感じるアートや植物を設置することも大切な要素だ。生花や観葉植物だが、最近はアーティフィシャルフラワーやフェイクグリーンもメンテナンスが容易なため人気がある。
アートも癒しや心に働きかける精神的な要素だ。絵画やオブジェ等の展示は転倒の危険も考え壁面展示のものが第一選択肢になるが、接触事故の危険も考え展示する際の高さの検討も必要だ。
その他音楽や香り等も、空間に彩りを加え検討したい要素ではある。

このように、老人ホームの快適な生活空間は様々なことをクロスオーバーさせて検討していく。まずは現場の意見を聞き、プロのICとして助言ができるようこれからも研鑽を積んでいきたい。

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和テイストを取り入れた談話室

オレンジ色をアクセントカラーにした談話室

ファヴォリインテリアワークス・清水 初美