ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
6月号は、武田清美さんに担当していただきました。

室内装飾新聞6月号より

『ICの視点』 ~ 「暮らしに寄り添うインテリア」

 みなさんは、「心地よい住まい」と聞いて、どのような空間を思い浮かべるでしょうか。

 明るく広いリビング、使いやすいキッチン、整った収納。いずれも住まいづくりにおいて重要な要素ですが、それらを満たすことが、そのまま「心地よさ」につながるとは限りません。

 インテリアコーディネーターとして住まいづくりに関わる中で感じるのは、「暮らしやすさ」は単なる機能や見た目だけでは測れない、という点です。

《そのご要望の奥にあるもの》

 打ち合わせの中で、「広いリビングがほしい」「対面キッチンにしたい」といったご要望を伺う機会は多くあります。

 しかし、その背景には、「家族と自然に集まりたい」「会話のある時間を大切にしたい」といった、暮らしへの価値観が内包されていることも少なくありません。

 表に現れた要望をそのまま形にするだけでは、本質的な満足に至らない場合もあります。重要なのは、その言葉の奥にある意図や想いを読み解くことにあると考えます。

《空間がもたらす影響》

 空間は、私たちの行動や感情に影響を与えます。

 視線の抜けは開放感を生み、人の滞在を促し、素材や色彩は無意識のうちに心理へ作用します。その結果、会話の生まれ方や過ごし方そのものが変化することもあります。

 インテリアは単なる装飾ではなく、人の営みを支える「環境」として機能しているといえるでしょう。

《余白というデザイン》

 近年、住まいづくりの中で意識しているのが、「余白」を残すという考え方です。

 用途や使い方を過度に固定せず、住む人が関わりながら更新していける余地を持たせること。これは、空間を時間とともに変化する存在として捉える視点でもあります。

 例えば、用途を限定しないスペースや柔軟な家具配置は、暮らしの変化に自然に応答します。

 また、私自身が大切にしているテーブルコーディネートも、暮らしにささやかな豊かさをもたらす要素の一つです。日常の中で器やクロス、季節のしつらえを少し変えるだけで、食卓の空気はやわらかく変化します。

 そのひと手間が、心のゆとりを生み、暮らしと空間との関係をより豊かにしてくれるように感じます。

《これからの空間づくりに》

 暮らし方の多様化に伴い、住まいに求められる価値も変化しています。機能性や意匠性に加え、「無理なく過ごせること」「自分らしくいられること」が、より重視されるようになっています。

 インテリアコーディネーターの役割は、要望を形にするだけでなく、その背景にある価値観や暮らし方を読み解くことへと広がっています。

 住まいは完成した瞬間が終わりではなく、暮らしとともに変化し続けるものです。

 整えすぎない余白や、住む人が関わり続けられる余地を内包すること。それが、長く心地よさを保つ空間につながるのではないでしょうか。

 暮らしに寄り添うとは、完成形を示すことではなく、日々の中に小さな豊かさを重ねていける余地をつくること。その積み重ねが、その人らしい住まいを育てていくと考えます。

  

& Design Grace 主宰 武田清美