ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
5月号は、岡室妙子さんに担当していただきました。

『ICの視点』 ~ 「提案と施工の、その先へ」
壁紙職人とインテリアコーディネーターの私たち夫婦で始めた㈱MUROは、堺市を拠点に、壁紙を中心とした提案から施工までを一貫して手がけてきました。現在は、施工チームと提案チームそれぞれにスタッフも加わり、現場とデザインの両面から空間づくりに向き合っています。
内装工事の現場では、これまで「提案する人」と「つくる人」が別々に語られる場面が少なくありませんでした。インテリアコーディネーターは空間のイメージや施主の想いを整理し、色や素材、暮らし方まで含めて提案します。一方、内装工事業者はその構想を現場で成立させるために、下地や納まり、施工性、工程、安全性までを引き受けています。この二つは、ひとつの空間を完成させるための両輪と言えます。
たとえば壁紙ひとつをとっても、提案の段階では柄や質感、空間との調和が重視されますが、施工の段階では下地の状態、ジョイントの見え方、出隅入隅の納まり、材料特性、施工手順など、多くの判断が求められます。提案者が施工の現実を知らなければ、現場に無理を強いるプランになりかねません。逆に施工者が材料の意匠性や施主の希望の背景を理解していなければ、単に「貼れる・貼れない」の話で終わってしまい、本来実現できたはずの価値を逃してしまいます。
だからこそ、デザイン提案と施工の相互理解が重要になります。施工者側は、壁紙やファブリック、色彩計画、インテリアの意図を知ることで、提案内容を踏まえた施工方法の検討もできます。「なぜこの材料なのか」「なぜこの納まりが必要なのか」を理解していれば、提案者との連携もより円滑になります。提案者側もまた、施主の要望やデザインの背景だけでなく、施工方法や現場条件への理解を深めることで、より実現性の高い提案ができ、納まりや代替案の相談もしやすくなります。美しさと現実性、その両方をつなぐ視点が、インテリアコーディネーターには求められているのだと思います。
一方で、内装業界全体の課題として避けて通れないのが、働き方と人材不足の問題です。職方の高齢化、若手入職者の減少、提案側の業務過多や役割の曖昧さなど、どちらの立場にも負担は大きくなっています。MUROでは、職方とインテリアコーディネーターが日常的に協働する中で、互いの仕事を知ることが課題解決の第一歩だと実感しています。図面やサンプルだけでは見えないことを現場で共有し、感覚や経験を言語化していく。その積み重ねが、品質向上だけでなく、若い人材にとっても「深みのある面白い仕事」と感じてもらえる環境になるはずです。
そのためには、会社単位の努力だけでは限界があります。内装業界団体とインテリア業界団体が連携し、相互理解の場を増やしていくことが必要です。たとえば、施工者向けの提案勉強会、コーディネーター向けの現場見学会、材料メーカーを交えた意見交換、若手向けの合同研修など、分野を越えた接点はもっとつくれるはずです。施工事例を「デザイン」と「施工」の両面から共有することも有効でしょう。互いの専門性を知ることは、単なる知識の交換ではなく、お互いの職能への敬意を育てることにつながります。
AIの進化によって、業界の仕事のあり方は確かに変わっていくと思います。けれど、現場で素材に触れ、空間の空気を読み、施主の言葉にならない想いを汲み取り、最善の方法をすり合わせる仕事は、簡単に置き換えられるものではありません。この仕事にしかできないことが確かにあると、日々の実務の中で感じています。だからこそ悲観することなく、業種を越えて学び合い、支え合いながら、もう少し踏ん張っていきたい。内装業の未来は、施工と提案が手を取り合う先にこそ開けていくのではないでしょうか。



岡室妙子 /株式会社MURO