ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
5月号は、林 眞理子さんに担当していただきました。

室内装飾新聞5月号より

『ICの視点』 ~ 日本の木と共に暮らす~木づかい ・ 気づかい~

2025年4月、関西万国博覧会が開幕しました。

シンボルである大屋根リングの約70%に、国産材の杉や檜が使用されています。この木造建築物は世界最大としてギネス記録に登録され、持続可能な建築素材としての木材の可能性が注目されています。

また、世界最古の木造建築物である法隆寺の五重塔も日本の木材文化の象徴です。これらは、日本人が木と共に暮らしてきた歴史の深さを示しているといえます。

その木の中でも縄文時代から日本人の暮らしを支えてきた「杉」は、日本固有の針葉樹で、学名「Cryptomeria japonica」として知られています。国土の約70%が森林である日本では、木と共に暮らすことが、現代社会においても重要なテーマとなっていることはご存じの通りです。

そこで、木材を内装材として活用することを意識していきたいと思います。それは、健康や心地よさだけでなく多くの利点をもたらしているからです。

・・・ 木材の健康効果とその裏付け ・・・

樹々の中を歩いているとリラックスしませんか?

それは木に含まれる成分が関係しています。

以前、筑波市にある森林総合研究所見学の際、当時の研究者から「木材のにおいが与える影響」についてお話がありました。赤ちゃん(生後1〜4か月)に木の香り(α-ピネン)と無臭の空気を嗅がせたところ、木の香りを嗅いだ時の脈拍数が安静時より低下することがわかったそうです。大人でも同じ結果が得られ、木の香りがリラックスを促すことがデータでも表されていました。

木の香りから「リラックス」することが説明されたことを受けて、インテリアコーディネートにその効果を活かしたいと考えています。

さらに、「内装を木質化」することが、視覚・嗅覚・触覚などを通りして、健康面だけでなく、心理面や衛生面、さらに子供の学習・育成にも良い影響を与えることを証明した研究資料を知り、心強く感じました。これらをもとに、より快適で健康的な空間づくりができると思います。

・・・ICの視点からの「木づかい」と「気づかい」・・・

内装材としての木材をどのように活用するかは重要になってきます。特に、空間の木材が占める割合を示す「木視率」の概念は、リラックス効果の向上に役立ちます。木材が空間の45%程度(記述によって多少違います)を占めることで、人間の脳にリラックス効果があるとされるので、私はこれを基準に提案をしています。

また、塗料の選定についても、私自身がシックハウス症候群にかかった経験から、健康への影響を考慮し、蜜蝋や柿渋、揮発性物質が少ない国産塗料など、無垢材の魅力を最大限に活かす製品を推奨しています。

リフォームやリノベーションにおいては、予算や制約に合わせた木材活用の提案をしています。

例えば、材木店や工務店との協力で、マンションに、国産材を内装仕上材として取り入れるプロジェクトを進めてきました。このような実績は、木材の可能性を広げられると考えています。

また、住まい手が、木の暮らしに愛着を持てるように、無垢の床材には、職人の方と一緒に保護材を塗布する提案などもしています。

・・・日本の木材文化を未来へ・・・

木材は、視覚、嗅覚、触覚などを通じて人々に安らぎを与える素材です。木を使った住まいは、単なる建物ではなく、生活の質を向上させ、健康的な環境を提供します。日本の森林資源を有効活用し、木材を現代の住空間に取り入れることは、日本の木材文化を持続可能な社会へと導いていきます。

ICとして、これからも日本の木材を活かし、暮らしをより豊かにする提案を続けていきたいと思います。

【参考資料】

公益財団法人 日本住宅・木材技術センター 

「建物の内装木質化のすすめ:科学的データは示す内装木質化の効果」(令和5年版)

  林 眞理子/インテリアワークスVIVIR