ICA関西に所属する会員によるリレー形式で「室内装飾新聞」に「ICの視点」と題してコラム掲載しています。
8月号は、久保栄子さんに担当していただきました。

室内装飾新聞8月号より

『ICの視点』 ~ 五感で感じるインテリアの勧め

 最近はSNSの写真を見て「こんなかっこいい部屋にしたい」「かわいい家具が欲しい」という声をよく聞きます。

でも、見た目がかっこいい部屋が、本当に自分にとってくつろげる家でしょうか。

現代人は視覚に頼りすぎる傾向にあります。

人はみな、五感をもって生まれてきています。

その五感を使わずして、画面の中で映えるインテリアにして本当に満足できるでしょうか。

私は、せっかく持って生まれた五感で感じる家をお勧めしたいという思いで仕事をしています。

なぜインテリアに五感が大切なのか、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚についてそれぞれ私の考えを述べます。

【視覚】

私たちは、五感の中で80%視覚を使って生活しています。視覚に頼りすぎと先ほど書きましたが見た目も必要ではあります。

色によって季節を感じたり、綺麗なものや好きなものを見ることで気持ちが上がったりします。家の中に、1箇所でも季節ごとの装飾ができるコーナー、もしくはお気に入りのものを飾る場所を作ることをお勧めします。

【聴覚】

聴覚は年齢によって変化します。年齢とともにモスキート音が聞こえなくなるという話は有名ですね。聴覚は人が最期を迎えるその時まで機能している感覚だと言われています。

音は、意識しなくても自然に耳に入ってきますが、気になるか、気にならないかで心地いい音か騒音か区別することができます。

仕事や家事がはかどる音楽、リラックスできる音楽など、自身がどんな音楽や音が気持ちに影響するかを意識して、取り入れることが豊かな生活への手段になります。

家族の生活する音や、気配を感じることは大切なので、遮音性能のいいドアで音を遮ることはお勧めできません。音に敏感でストレスになるという場合は別ですが。

そして、外の音も遮断してしまわず、たまには窓を開けて遠くの音に耳を澄まして季節を感じることも大切です。

【触覚】

手触りを意識しなくても、生活はできます。触覚は、インテリアに一見必要ない感覚のように思いますが、肌は露出した脳と言われるほど脳と深い関係があります。木のぬくもりに触れた時に、ストレスが緩和され、ステンレスなど冷たい素材に触れた時は、緊張することが実験結果として出ています。肌に触れる素材で脳が緊張したりリラックスできたり、生活空間の快適さが変わるのです。

使う場所で素材を選ぶということはとても大切です。

【嗅覚】

嗅覚は、人の記憶を司る脳の海馬と深く結びついています。最近は、匂いを消すことや人工的な香りを加えるということが流行っているようですが、それは、危険なことです。生活することで自然にできる家の匂いは、家の香りとなり、自身の落ち着く香りとして脳に記憶されていきます。旅行などで、しばらく家から離れていて家に帰った時「やっぱり家が落ち着くわ」と感じるのはそのためです。

その匂いを消してしまうと、家が落ち着かない場所になってしまいます。

香りを楽しむという点では、自然な植物精油からのアロマを楽しむ、季節の花を家に取り入れるという方法が望ましいです。

【味覚】

味覚は食べるときの状況や気持ちに左右されます。大好きなものでも気分が沈んでいるときは、なんだかいつもの味がしなかったり、なんでもない普段の食事でも、気の合う仲間と楽しく食べるとおいしく感じたりしますよね。

最近では、個食も多いと言われていますが、家族で楽しく食卓を囲み、会話をしながら食事をするということは大切です。忙しくてみんな揃うのは難しいという場合でも、食事が終わってくつろぐソファの場所を食卓にいる人と会話できる位置に置くなど、食事中に誰かと会話できるような工夫をするのもいいでしょう。

季節で食器を変えてみるというのも見た目には楽しく、いつものお料理もおいしく感じますよね。

つらつらと述べて参りましたが、何気なく過ごしている日々に少しでも、素材の手触りを気にしてみる、耳を澄ましてみる、香りを楽しんでみる、好きな絵や植物などを飾り、楽しく食事できる工夫をしてみる、そんな五感をしっかり使った心が豊かになる生活をこれからも推奨していきたいと考えています。

久保栄子/りとるらっく